vol.748【経営コラム】AIによって自社の仕事をどう再設計できるか

…成否はAIを使うか使わないかではない!

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

生成AIが急速に普及し、企業経営のあり方が大きく変わろうとしています。AIの登場は、インターネットやスマートフォンの普及に匹敵するほど大きな経営環境の変化になると思われます。しかし、中小企業経営者と話をしていると、「ChatGPTを社員が使っています」「議事録をAIで作っています」「文章作成が楽になりました」という話をよく聞きます。もちろん、それもAI活用です。しかし、それだけでは不十分です。AIの本当のインパクトは、仕事を少し効率化することではありません。会社の仕事のやり方そのものを変えることにあります。

2026年版中小企業白書でも、中小企業の約3割がAI活用に取り組んでおり、バックオフィスだけでなく、営業、販売、顧客対応などにも活用が広がっています。さらに重要なのは、政府がAI活用を単なる省力化ではなく、従業員のアウトプットを補完し、付加価値を高める手段として位置付けていることです。

これから中小企業が直面する最大の問題の一つは、人手不足です。人口減少が続く日本では、「仕事が増えたから人を採用する」という従来型の経営が、次第に成立しにくくなります。そこで必要になるのが、「人を増やして売上を増やす経営」から「一人当たりの生産性を高めて利益を増やす経営」への転換です。その強力な武器になるのがAIです。

例えば営業担当者が提案書を作成する場合、これまでは情報収集、競合調査、資料作成などに数時間を費やしていました。AIを活用すれば、調査、構成案、文章作成、要約などの相当部分を短時間で処理できます。
経理、人事、総務でも同じです。議事録、社内文書、マニュアル、求人原稿、研修資料、データ分析など、これまで人間が時間をかけて行っていた仕事の一部をAIに任せることができます。

しかし、ここで注意しなければなりません。単に、「今までの仕事をAIで速くする」だけでは、十分ではありません。重要なのは、「そもそも、この仕事は人間がやる必要があるのか」と問い直すことです。
例えば、10人で行っている業務をAIによって8人でできるようになったとします。そこで2人を削減するだけなら、単なるコスト削減です。そうではなく、余力が生まれた2人を営業、新商品開発、顧客フォロー、新規事業など、より付加価値の高い仕事へ移す。これこそがAIを成長につなげる経営です。つまり、AIは人を減らすための道具ではなく、人をより価値の高い仕事へ移すための道具と考えるべきなのです。

経済産業省は、さらに一歩進んで「AX(AI Transformation)」という考え方を示しています。これは単にAIツールを導入するのではなく、AIを前提として業務や事業そのものを再設計する考え方です。ここに今後の中小企業経営の大きな分岐点があると思います。

これから企業は、「AIを使う会社」と「AIを使わない会社」に分かれるのではありません。本当の差は、「AIを使って仕事のやり方を変える会社」と「従来の仕事のやり方を守り続ける会社」の間に生まれるでしょう。そして、この変革を社員任せにしてはいけません。AI導入を情報システム担当者や若い社員に任せて、「何か便利な使い方を考えておいて」と指示するだけでは、会社全体は変わりません。なぜなら、「どの仕事をAIに任せるのか」「どの仕事をやめるのか」「人間は何に集中するのか」「生まれた時間をどこへ再投資するのか」を決めることは、経営そのものだからです。だからこそ、AI時代に最もAIを理解しなければならないのは、必ずしもIT担当者ではありません。社長です。
ただし、社長自身がプログラムを書いたり、最新のAI技術をすべて理解したりする必要はありません。必要なのは、「AIによって自社の仕事をどう再設計できるか」を考える力です。営業はどう変わるのか。管理部門はどう変わるのか。商品開発はどう変わるのか。社員教育はどう変わるのか。そして、自社のビジネスモデルそのものを変えられないか。ここまで考えて初めて、AIは単なる便利なツールから「経営戦略」になります。

2026年版中小企業白書でも、AI活用やデジタル化による「労働投入量の最適化」と、商品・サービスの高付加価値化などによる「付加価値額の増加」の両方に取り組むことが重要だと指摘されています。AI時代は中小企業にとって決して不利な時代ではありません。むしろ意思決定が速く、組織が小さく、仕事の仕組みを大胆に変更できる中小企業には、大きなチャンスがあります。
AIに仕事を奪われることを恐れる必要はありません。恐れるべきなのは、競合企業がAIによって生産性を2倍、3倍へと高めているのに、自社だけが従来の仕事のやり方を続けることです。AI時代に問われるのは、「AIを導入したか」ではありません。AIによって会社を変えたか。その変革を設計することこそ、これからの社長に求められる重要な仕事なのです。

…次回号に続く。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)