vol.739【経営コラム】ビジネスモデルを抜本的に見直す

…デフレ時代の成功体験を捨てる勇気がありますか!

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

前回のコラムでは、日本経済は30年以上続いたデフレ経済から脱却し、持続的なインフレを伴う成長経済へ移行しつつあるという考えをお伝えしました。そして、これからの事業計画は「毎年5%程度の価格改定」を前提に考えるべきだと提言しました。

しかし、本当にお伝えしたいことは「値上げをしましょう」という話ではありません。私が経営者の皆様に最もお伝えしたいのは、「これまでのビジネスモデルが、これからも通用するとは限らない」ということです。日本経済のパラダイムが変われば、企業経営の前提も変わります。だからこそ今、自社のビジネスモデルをゼロベースで見直す時期に来ているのです。

30年間続いたデフレ時代、多くの企業は「価格を上げられない」という前提で経営してきました。利益は徹底したコスト削減で確保し、人件費はできるだけ抑え、設備投資は慎重に行う。売上を維持するためには価格競争もやむを得ない、そうした経営が一つの正解でした。しかし、それは「物価が上がらない経済」だから成立していたモデルです。

これからは物価も賃金も上昇する時代です。同じ経営を続ければ、原材料費や人件費の上昇によって利益は年々圧迫されていきます。利益が減れば賃上げもできず、人材も確保できません。設備投資も遅れ、生産性も上がらない。その結果、競争力を失ってしまいます。つまり、最大のリスクはインフレではなく、「デフレ時代の経営を続けること」なのです。

では、何を見直すべきなのでしょうか。まず考えていただきたいのは、「誰に、どのような価値を提供している会社なのか」という原点です。「何を売っているか」ではありません。

お客様は商品そのものを買っているのではなく、その商品やサービスによって得られる価値に対価を支払っています。建設会社であれば建物ではなく「安心して使える空間」を提供しているのかもしれません。製造業であれば製品ではなく「品質への信頼」を提供しているのかもしれません。サービス業であれば作業ではなく「時間」や「安心」を提供しているのかもしれません。この価値を明確にできれば、価格競争から一歩抜け出すことができます。

次に見直すべきは、「利益を生まない仕事」を続けていないかという点です。中小企業では、「長年のお付き合いだから」「断れないから」という理由で、利益率の低い仕事を続けているケースが少なくありません。しかし、人手不足が常態化するこれからの時代は、「すべての仕事を受ける経営」ではなく、「利益を生む仕事に経営資源を集中する経営」へ転換することが重要になります。売上を増やすことよりも、利益を増やすこと。そのためには、取引先や商品・サービスの構成を見直す勇気も必要です。

さらに、人手不足への対応も「採用」だけで考えるべきではありません。人口減少が続く日本では、人材確保はますます難しくなります。「人が採れない」と嘆くより、「少ない人数でも利益を生み出せる仕組み」を構築することが重要です。そのためには、DXやAIの活用、自動化設備への投資、業務フローの見直しなど、生産性を高める取り組みを積極的に進める必要があります。人を増やす経営から、一人当たりの付加価値を高める経営へ。この発想の転換が企業の競争力を左右します。

そして最後に見直していただきたいのは、「価格」に対する考え方です。デフレ時代は、「価格を上げたらお客様が離れる」と考えるのが当たり前でした。しかし現在は、多くの企業が価格改定を行い、それを市場が受け入れる時代になっています。もちろん、理由のない値上げは支持されません。しかし、お客様にとって価値があり、その価値を丁寧に伝えられる企業であれば、適正な価格は受け入れられます。価格とは、コストの積み上げではなく、価値の対価です。これからの経営者に求められるのは、価格を下げる工夫ではなく、価格に見合う価値を高める工夫なのです。

経営環境は大きく変わりました。だからこそ、過去の成功体験を見直す勇気が求められています。ビジネスモデルは、一度つくれば終わりではありません。時代の変化に合わせて進化させるものです。これからの5年、10年を見据えたとき、自社のビジネスモデルは、物価が上がり、賃金が上がり、人手不足が続く時代でも利益を生み出せる仕組みになっているでしょうか。もし答えに迷いがあるのであれば、今こそ抜本的に見直す絶好のタイミングです。

経営とは、変化への適応です。デフレ時代の延長線上に未来はありません。日本経済が新しい時代に入った今、中小企業にも「守りの経営」から「価値を創造する経営」への転換が求められています。その第一歩は、自社のビジネスモデルを根本から問い直すことではないでしょうか。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)