vol.716【実践コラム】資金繰り悪化の初期サインについて

…赤字になる前に、キャッシュの減り方に兆候が出ます。

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広

六月は、資金繰り悪化の初期サインをテーマにお話しします。
資金繰りが苦しくなる会社には、共通して前兆があります。
問題は、その前兆が決算書の出る頃には見えにくくなっていることです。
日常の数字に早めに表れるサインを拾えるかどうかで、打てる手の数が変わります。

最初に確認したいサインは、現預金の減り方です。
預金残高が減っているかどうかよりも、減り方が変わったかどうかが重要です。
以前は増減が小さかったのに、最近は毎月の減少が続いている。
月商一か月分以上というキャッシュの基準に近づいている。
こうした変化が見えた時点で、原因の分解が必要になります。

次のサインは、売上が伸びているのに資金が薄くなる動きです。
売上が増える局面では、売掛金や在庫が増えやすくなります。
利益が出ているのに現金が減る状態が続く場合、成長に伴う資金需要が膨らんでいる可能性があります。
この動きは、資金繰りが崩れる前に必ずと言っていいほど出てきます。

三つ目のサインは、支払いが先行し始めることです。
仕入れや外注費、広告費、採用・固定費など、売上が増える前に支出が増えると、資金の谷が深くなります。
この状態が長引くと、銀行に相談するタイミングが遅れやすくなります。

四つ目のサインは、入金が遅れ始めることです。
売掛金の増加だけでなく、入金予定と実際の入金がずれ込む回数が増える。
特定の取引先の入金が遅れがちになる。
こうした変化は、資金繰りを確実に圧迫します。
放置すると、売上の増加よりも資金の減少が先に進みます。

五つ目のサインは、借入返済の負担感が増してくることです。
返済は損益計算書には出ません。
黒字であっても返済が重ければキャッシュは減ります。
返済が重い状態で売掛金や在庫が増えると、資金繰りは一気に苦しくなります。
返済額が事業の体力に合っているかどうか、見直しが必要な局面です。

初期サインに共通するのは、まだ打てる手が残っている段階で出るという点です。
支出のタイミングをずらす、回収条件を見直す、在庫を圧縮する、設備投資は資金使途に合わせて都度ファイナンスを組む、必要なら運転資金を早めに確保する。
こうした対応が取れる会社は、資金繰りが崩れにくくなります。

資金繰りの悪化は、突然起きるように見えて、実際には徐々に進みます。
月商一か月分以上のキャッシュを守るという基準を置いているなら、その基準に近づく段階が最も重要です。
その段階で原因を分解し、早めに手を打つ。
これが資金繰りを守る基本になります。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)