vol.710【実践コラム】キャッシュが薄くなりそうなときの手の打ち方について

…設備投資は自己資金で払わず、資金使途に合わせて都度ファイナンスを組む方が安全です。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
前回は、投資前に資金配分を決める考え方として、月商一か月分以上のキャッシュを守る基準を置くという話をしました。今回は、キャッシュが薄くなりそうなときに社長が取りたい手の打ち方を、より実務に寄せて整理します。
キャッシュが薄くなりそうな場面では、ファイナンスが中心になります。資金が薄くなってから慌てるのではなく、資金が動くタイミングで丁寧に借入を組む。この姿勢が、資金繰りを安定させます。
現場でよく見かけるのが、設備投資を手元資金で支払ってしまうケースです。預金があるから問題ない、融資の手続きが面倒だから自己資金で払う。その場ではスッキリしますが、後から影響が出てきます。
金融機関は、原則として資金使途に応じた融資しかできません。設備投資であれば設備資金、運転資金であれば運転資金として融資を行います。資金使途が曖昧な資金需要には、融資が出にくくなります。
設備投資を自己資金で支払うと、貸借対照表の現預金が減り、固定資産が増えます。この状態でキャッシュが薄くなった場合、追加融資を申し込んでも、資金使途は運転資金にしかなりません。
ここで問題になるのが、運転資金の借入上限です。銀行は貸借対照表から運転資金の必要額を見ます。売掛金、在庫、買掛金などのバランスから、運転資金としての限度感が形成されます。運転資金の借入が既に上限まで入っている場合、新規の運転資金融資は出にくくなります。
結果として、設備投資を自己資金で払った後にキャッシュが薄くなっても、運転資金として借り増しができない形になります。設備投資の時点で借りていれば手元に残せたはずのキャッシュが、固定資産に変わってしまっているからです。社長の選択肢が急に狭まるのは、こうした場面です。
だからこそ、設備が発生したら都度、設備資金として融資を受ける考え方が安全です。設備資金は資金使途が明確で、銀行側も稟議を組み立てやすくなります。運転資金の枠を温存したまま、手元キャッシュを厚く保てます。
月商一か月分以上のキャッシュを守るという基準を置くなら、なおさらです。設備を自己資金で支払う判断は、基準を守る難易度を上げます。設備資金で借りてキャッシュを残す判断は、基準を守る確率を上げます。
借入は、困ったときにするものではなく、資金配分を設計するために行うものです。設備投資の都度、資金使途に合わせてファイナンスを組む。この積み重ねが、キャッシュが薄くなる局面でも会社を守ります。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)

