vol.692【経営コラム】中小企業が営業利益率を5%向上させるための具体的戦略

…「売上を伸ばす」だけではない、「稼ぐ力」を磨く経営へ
(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
中小企業が持続的に成長し、財務基盤を強化するためには、「売上至上主義」ではなく「利益重視経営」への転換が不可欠です。特に営業利益率(営業利益÷売上高)を向上させることは、企業体質の抜本的な強化を意味し、企業価値の向上につながります。現実的な目標値として営業利益率の5%向上を目指してみませんか。
以下に、営業利益率を高めるための具体的な取り組みを、「売上向上策」「コスト構造の見直し」「業務効率化」「ビジネスモデル再設計」の4つの観点から整理します。
■1.高収益型の売上構成への転換
単に売上を増やすのではなく、「粗利率の高い商品・サービス」の比率を上げることが利益率向上の近道です。
- 収益性分析の徹底
商品・サービス別、顧客別、チャネル別に粗利率を分析し、不採算分野の見直しを行います。 - 高付加価値サービスの提供
例として、飲食店であれば「コース料理の導入」、製造業であれば「保守・メンテナンス付きの販売」、IT業であれば「サブスク型サポート」など、単価が高く利益率の良いメニューを開発します。 - 客層の見直しと取引先の絞り込み
値引き交渉の多い顧客を見直し、「価格ではなく価値で選ぶ顧客」にリソースを集中します。
■2.固定費・変動費の戦略的見直し
営業利益率を高めるには、コスト構造の最適化が欠かせません。
単なる削減ではなく「戦略的コストコントロール」が重要です。
- 変動費の最適化
原材料費の見直しや、仕入先の再交渉、共同仕入れなどで単価を抑えます。 - 固定費の柔軟化
オフィス賃料の見直し、非稼働スペースの削減、アウトソーシングの活用で、固定費を変動費化する工夫を行います。 - 人件費の最適配置
単に削減ではなく、「一人当たりの粗利益額」を見直し、高生産性人材への再配置や多能工化、パート・業務委託の活用を検討します。
■3.デジタル化と業務効率化による生産性向上
営業利益率は、「同じ売上でも少ない工数で回す」ことで劇的に改善できます。以下は即効性のある施策です。
- 業務の標準化・マニュアル化
業務属人化を防ぎ、品質とスピードを平準化します。 - クラウドサービス活用
会計、給与、請求、勤怠など、定型業務はクラウドツールに移行し、人件費とミスの削減を図ります。 - 営業活動の効率化
顧客管理(CRM)や見積・受注管理のツール導入により、案件獲得~クロージングの工数を削減し、営業1人あたりの受注額を高めます。
■4.ビジネスモデルの再設計と利益構造の革新
既存の事業の延長ではなく、「利益の出る仕組み」そのものを見直すことも、利益率向上の本質的な打ち手です。
- BtoBからBtoC展開へ
中間マージンを省いた直販モデルに転換し、利益率を上げる(例:工場直販、ECの活用)。 - サブスクリプションモデルへの移行
単発売上から、毎月安定した収益を生む継続課金型へシフトすることで、利益構造を安定化。 - 規模の追求から利益の追求へ
あえて「規模を追わずに、利益を重視する選択」を取ることで、資源を効率的に配分します。
■「利益=企業の筋力」である
営業利益率の改善は、単なる財務数値の問題ではなく、企業の競争力・成長性・継続性のバロメーターです。多くの中小企業では、「売上さえ上がればなんとかなる」という考えが根強いですが、実際は「売上が上がっても利益が残らない」構造に陥りやすいのが実情です。だからこそ、営業利益率5%の向上を経営の最重要課題として掲げ、売上構成、コスト構造、業務オペレーション、ビジネスモデルのすべてを見直すべきです。
その第一歩は、現状の数字を正しく把握し、利益の出ていない部門・商品・取引を見つめ直す「経営の見える化」です。「利益を残す経営」こそが、賃上げ、設備投資、資金繰り、事業承継といった中小企業の経営課題すべての土台になるはずです。
田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)