vol.687【実践コラム】金利上昇時代の銀行対応について

…預金を求められたとき、経営者はどう考えるべきか。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
ここ最近、金融機関の姿勢が目に見えて変わってきました。つい昨年までは「預金は不要」「融資に集中したい」と言っていた銀行が、金利上昇を背景に「預金をおいてほしい」と口にするようになっています。
マイナス金利が解除され、銀行にとって預金が「コスト」から「収益源」に戻ったためです。
これまで預金を集めても運用先がなく、むしろ利ざやを圧迫していた時代から一転、今は預金残高が金利収入に直結する環境に変わりました。銀行にとって「預金は積極的に集めたいもの」へと再び立ち位置が変わっています。
■ 銀行の“預金をお願いしたい”という本音
銀行の営業担当者にとって、預金は融資と同じく評価対象です。
特に法人預金は安定した資金調達源として重視されます。
預金残高が増えれば、運用益で収益が上がる構造になったため、現在は「預金も融資も」という営業方針が主流になっています。
一方で、金融庁の監督下では「歩積み両建て(融資と預金をセットで強制する行為)」が問題視されています。
したがって、銀行としても、“預金してほしいが強制できない”というジレンマを抱えています。
結果として、経営者に対して「お願いベース」での預金協力を求めるケースが増えています。
■ 経営者はどう対応すべきか
銀行が預金を求める背景と表立って預金を強制できない事情を理解したうえで、関係性の深さと実益のバランスで判断することがポイントです。
- メインバンクへの協力は「信頼投資」として割り切る。
融資取引が大きく、今後も付き合いが続く銀行には、預金残高をある程度確保しておくのも一つの戦略です。「貸してくれる銀行を支える」という姿勢は、次の融資や条件交渉でプラスに働きます。 - サブバンクには合理性で判断する。
預金残高を複数行に分散させると、資金管理が煩雑になります。
融資比率や将来の取引可能性を見て、預金配分を整理しましょう。 - 資金繰りに支障をきたす協力は避ける。
預金を置くことで手元資金が減り、実質的に自由に使えるキャッシュが減るのは本末転倒です。流動性を確保したうえで、余剰資金を置く程度にとどめるのが現実的です。
■ まとめ
金利上昇局面では、銀行の「お金の論理」も変わります。
預金を求める姿勢が強まるのは自然な流れですが、経営者としては
- 銀行の立場を理解し、
- 自社の資金繰りに無理のない範囲で、
- 戦略的に協力する。
この三点を意識することが大切です。
銀行との関係は“力関係”ではなく“信頼関係”で築かれます。
預金を通じた関係強化も、その一つの手段にすぎません。
「協力はしても、依存はしない」この距離感が、金利上昇時代の賢い銀行対応と考えます。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)

