vol.687【経営コラム】経営者の成長は「誰と付き合うか」で決まる

…人間関係の再設計が、企業変革の第一歩になる

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

変革を志すとき、まず何を変えるべきか。経営戦略、商品、社員、財務体質。確かにどれも重要ですが、もっと本質的で、かつ確実に自分と会社を変える方法があります。

それは、「付き合う人を変えること」です。

経済評論家・大前研一氏は、次のように述べています。
「人間が変わる方法は3つしかない。時間配分を変えること。住む場所を変えること。そして、付き合う人を変えること。」

この3つの中で、経営者が最も効果的に自分を変革できる手段が、「誰と付き合っているか」を見直すことだと私は思います。

私たちは、気づかぬうちに周囲の人間の影響を大きく受けています。日々の会話、価値観、考え方、判断基準、時間の使い方、そのほとんどは、自分の中から湧き出てきたものではなく、「誰と交わっているか」によって決まっているのです。

経営者として、もし最近「成長が止まっている」「新しい視点が湧かない」と感じているなら、それは人間関係の停滞が原因かもしれません。日々付き合っている人が、あなたに変化と刺激を与えているかどうか、まずはそこを点検してみてください。

以下に、経営者が人間関係を見直すべき具体的なポイントを提言します。

【1】“反応型”の人間関係から、“目的型”の人間関係へ

取引先、地元の仲間、同業者、親しい古くからの付き合い、これらは決して悪いものではありません。ただし、慣れ合いや惰性だけの関係になっていないかを見直してください。経営者には、「学びたい」「刺激を受けたい」「意見を交換したい」という目的意識を持った関係構築が必要です。

【2】「異質な人」と定期的に交流を持つ

同じ業界の人とばかり話していても、新しい発想は生まれません。異業種の経営者、異世代の起業家、海外で活躍している人、専門家、アーティスト、価値観の異なる人との対話は、思考の幅を広げ、柔軟な発想を可能にします。あえて「違和感のある人」と会うことで、自分の思考回路を再構築できるのです。

【3】尊敬できる人とつながる

自分より経験豊かで、実績を積み重ねてきた経営者との交流は、言葉にならない多くの学びをもたらします。成功している経営者と定期的に会うだけで、考え方や判断スピード、経営者としての「器量」の違いを肌で感じることができ、自らの基準も引き上げられます。

【4】「人間関係の棚卸し」を実行する

1カ月に一度でも、自分が最近どんな人と時間を過ごしているかを可視化してください。その中に、「ただの習慣的な付き合い」「会うたびにエネルギーが削られる人」「過去の自分の延長にいる人」はいないでしょうか。逆に、「話すと前向きになれる人」「自分に刺激を与えてくれる人」が足りていないなら、意識的に時間をつくるべきです。

【5】人間関係を変えることを恐れない

「長く付き合ってきた人を変えるなんて申し訳ない」「断ち切るのは失礼だ」という気持ちは理解できます。しかし、あなたの時間と精神力は有限です。そしてそれは、あなた一人のものでなく、社員や顧客、家族の未来にも関わっている資源です。

成長したい、変革したいと本気で思うなら、付き合う人を変えるという“決断”が必要です。それは他人を切ることではなく、未来に向かう自分を選び直すことなのです。

中小企業の経営は孤独です。しかし、孤立してはいけません。あなたの周囲に、あなたの思考を引き上げ、行動を促し、視野を広げてくれる人はいますか?

もし今いないなら、今日からつくり始めましょう。誰と付き合うかを変えれば、自分が変わります。自分が変われば、会社も変わります。そして、その変化はやがて、社員と社会を巻き込んだ“次の成長”へとつながっていくのです。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)