vol.682【実践コラム】新規出店で利益倍増?について

…既存店舗の改善こそが最短ルートです。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
ある飲食店で経常利益が年間300万円出ているとします。経営者の多くは「もう1店舗出せば利益は600万円に倍増するのでは」と考えがちです。しかし現実はそう単純ではありません。
まず、新店舗を出すには多額の初期投資が必要です。保証金や内装工事費、厨房機器の購入、スタッフ採用や教育など、数千万円単位の資金がかかります。銀行からの借入で賄うにしても、返済負担が利益を圧迫し、黒字化までには時間がかかるのが普通です。さらに立地や競合状況によっては、思ったように売上が立たず、赤字が膨らむリスクもあります。「1店舗で黒字だから2店舗でも黒字になる」という単純計算は極めて危険です。
一方で、既存店舗にはまだ改善余地が眠っていることが少なくありません。たとえば、
- 客単価を上げるためのメニュー改良やセット提案
- 回転率を高めるためのオペレーション改善
- 食材ロスや人件費シフトの見直しによる原価率・経費削減
- 常連客との関係強化やSNSを活用した新規集客
これらはすぐに取り組める施策であり、大きな投資を必要としません。小さな改善を積み重ねるだけで、経常利益300万円を400万、500万円へと高めることは十分可能です。
重要なのは「既存店舗の収益性を最大化する力」こそが、将来の出店を成功に導くという点です。既存店舗で十分な利益を出せない状態で新店舗を増やしても、経営の基盤が広がるどころか、リスクと負担だけが増えることになります。逆に、既存店舗で利益率を改善し、手元にキャッシュを蓄えることができれば、新規出店に踏み切るときも資金面・人材面の余裕を持って取り組めます。
まとめると、経営者にとって「拡大」への意欲は大切ですが、その前にやるべきは足元の磨き込みです。既存店舗での最大限の努力を尽くし、その成果が十分に出てからこそ、次の店舗展開が「利益を倍にする現実的な道」になります。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)