vol.682【経営コラム】「より良い」ではなく「違う」ものを作るという戦略!

…同質化競争から抜け出す鍵
(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
中小企業が成長するためには「品質向上」「コスト削減」といった努力が不可欠です。しかし、どれだけ努力して「より良いもの」を作っても、それが市場で埋もれてしまっては意味がありません。多くの企業が似たような取り組みをしている現在、「より良い」ことはもはや差別化要因ではなく、スタートラインに過ぎないのです。
このような状況で起きているのが、「同質化競争」です。例えば、美容室。どの店も「技術力」「丁寧な接客」「居心地の良い空間」をアピールします。しかし、それだけでは消費者にとって違いが見えにくく、「安い方に行く」「近い方に行く」といった価格や立地の比較に依存してしまいます。こうなると価格競争が激化し、利益は減少します。
そんな中、大阪にある小さな美容室が打ち出したのが「マンガ読み放題&完全個室」のサロンです。美容院での会話が苦手な人、長時間の待ち時間が苦痛な人向けに、全席個室、マンガ1,000冊常備というコンセプトに特化しました。これにより、SNSや口コミで話題となり、予約の取れない人気店に成長しました。技術ではなく「体験の違い」で勝負した好例です。
製造業でも同様の発想が重要です。ある関東の町工場は、精密機械部品の下請けとして業界内で地道に活動していましたが、安価な海外製品との競争に直面していました。そこで同社が始めたのが「工場の音を使った音楽制作」です。機械の動く音、金属の削れる音を録音し、それをリズムやメロディにしてCDとして販売。さらに「音で伝えるものづくり企業」として、企業PR用の動画やイベントに活用されるようになりました。商品ではなく、自社の環境や雰囲気を「違う形」で価値に変えたのです。
また、飲食店の例も挙げられます。名古屋のあるカフェは、「メニューのすべてを昭和レトロ風にアレンジした」という独自の方向性をとりました。メニュー表は昭和の給食表風、料理は昭和の家庭料理を再現し、店内は駄菓子屋のような装飾。結果、ノスタルジーを求める若者や年配客の支持を集め、「映える店」としてテレビやSNSで紹介されるまでになりました。
さらに、北海道のある家具職人は、「組み立て不要、部屋の真ん中で目立つ家具」をコンセプトに、円形の畳ベッドや、壁に立てかけると棚になるイスなど、機能性より“会話のきっかけになる家具”を発表。インテリア雑誌やデザインイベントで注目され、BtoCだけでなくホテルやカフェへの導入が進みました。
また、福岡の印刷会社は、競合が激化する中、「匂いがする印刷物」というニッチを発見。香料をインクに混ぜて印刷できる技術を活かし、アロマ付き名刺や香るパンフレットを開発。化粧品会社や観光地のお土産パンフに採用され、感覚に訴える新たな価値を提供しました。
これらの事例に共通しているのは、「他社と違う軸で勝負している」という点です。「品質」や「価格」といった通常の評価軸ではなく、「体験」「驚き」「記憶に残るコンセプト」など、比較されにくい価値を提示しているのです。中小企業は資源が限られているからこそ、このような差別化が極めて有効なのです。
まとめると、「より良いもの」は他社も目指しているため、気がつけば同じ土俵での争いになります。しかし「違うもの」は、競争の土俵そのものを変える力があります。自社の強みや特徴を活かしながら、「誰にも似ていない価値」を創り出すことが、これからの中小企業経営には求められているのです。
同質化競争から脱却して、「違うもの」を作ることに挑戦しませんか。
田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)