vol.681【実践コラム】オールドビジネスが上場を目指す際のポイントについて

…安定実績を未来の成長物語に変えることが不可欠です。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
先日、あるオールドビジネスを主業とする関与先様から「将来的に上場したいのだが可能だろうか」と相談を受けました。長年にわたり堅実に業績を積み重ねてきた企業で、売上も安定しています。しかし、新規性のあるビジネスではないため、株式市場でどのように評価されるかを知りたいとのことでした。
「上場」と聞くと、急成長するITベンチャーやスタートアップを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、オールドビジネスであっても、安定実績を武器に上場を果たす会社は少なくありません。むしろ投資家からは「基盤のしっかりした企業」として安心感を持たれるケースもあります。
とはいえ課題となるのは「成長性」と「新規性」です。成熟市場に属していると投資家から「伸びしろがないのではないか」と疑問を持たれやすく、株価がつきにくいのも事実です。ここをどう乗り越えるかがポイントになります。
第一のヒントは、成長ストーリーを描くことです。たとえば既存事業を基盤にした海外展開、サステナブル素材への対応、DXを活用した付加価値強化、あるいはM&Aによる新市場進出等です。実績に裏打ちされた安定感に、次の一手を重ねることで「未来の伸びしろ」を提示できます。
第二に、非財務情報の発信です。環境対応や地域社会との連携、従業員への取り組みなど、財務諸表には表れにくい価値が市場で注目されています。オールドビジネスだからこそ持つ「長年の取引基盤」や「地域との結びつき」も、立派な投資判断材料になります。
第三に、内部統制とガバナンスの整備です。監査法人対応や社外取締役の登用、子会社管理の透明化など、上場企業として不可欠な仕組みづくりは避けて通れない工程です。一定の成果を出すには時間がかかるため、早めの着手が必要です。
まとめると、オールドビジネスが上場を目指すときには、
- 安定した実績を土台に成長ストーリーを描くこと
- 非財務情報を積極的に発信すること
- 内部統制・ガバナンスを整備すること
この3つが重要なヒントになると思います。
安定した黒字や取引基盤は、すでに「信頼」という大きな資産です。それを未来への成長物語へと昇華させることができれば、オールドビジネスであっても上場は十分に現実的な選択肢となります。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)