vol.678【実践コラム】決算書の注記について

…銀行が意外と重視する“脚注”を経営戦略に活かす方法です。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
中小企業の経営者にとって、決算書は「損益計算書と貸借対照表を見れば十分」と思われがちです。しかし銀行の審査担当者は、それだけでなく「注記(脚注部分)」にも必ず目を通しています。形式的に付け足したように見える注記ですが、そこには会社のリスクや経営姿勢が明確に表れます。融資を有利に進めるには、この部分を軽視しないことが重要です。
1.偶発債務の注記
保証債務や訴訟リスクといった、将来支出につながる可能性のある事象は、注記で開示するルールになっています。たとえ金額がゼロであっても「偶発債務はありません」ときちんと記載しているかどうかは、経営の透明性を示すシグナルです。逆に書き方が曖昧だと「他に隠しているリスクがあるのでは」と疑念を持たれることもあります。
2.関連当事者取引の注記
同族企業では、社長個人や親族会社との取引が少なからず存在します。銀行は「会社の資金が社外に流出していないか」を注記で確認します。経営者借入金や貸付金などがある場合でも、その理由や条件を明確に開示すれば「説明責任を果たしている」と評価されます。逆に曖昧な記載は、ガバナンス不備と見なされかねません。
3.リースや長期契約の注記
設備リースや長期の賃貸契約は、貸借対照表に全額が載らないケースもあります。そのため、銀行は注記から「将来必ず発生する固定的支出」を把握します。経営者自身にとっても、注記を整備することは固定費の棚卸しになり、資金繰り予測や経営判断に役立ちます。
4.注記から伝わる“経営姿勢”
銀行は数字の大小だけでなく、注記が整理されているか、誠実に説明されているかを見ています。形式的にコピペしたような注記では「開示姿勢が弱い」と判断されやすく、逆に正確で丁寧な注記は「経営管理がしっかりしている」というプラス評価につながります。
■ まとめ
- 決算書の注記は「おまけ」ではなく、銀行が信頼性を測る重要な情報源です。
- 偶発債務はゼロでも「なし」と明記する
- 関連当事者取引は理由や条件を丁寧に説明する
- リースや長期契約の支払予定を整理して開示する
これらを徹底するだけで、銀行との対話がスムーズになり、資金調達力の向上にもつながります。
次の決算書では、ぜひ「注記の質」にも目を向けてみてください。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)