vol.676【経営コラム】トランプ関税が日本の消費に与える影響

…輸出収益の減少による国内所得の縮小懸念!
(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
トランプ大統領が関税強化を打ち出し、日本からの輸入品にも高率な関税を課す方針が現実化しました。自動車や精密機械、金属部品、電子機器といった主要輸出品目に対して最大24%の関税が課される見通しで、日本経済への打撃は避けられません。
(※4月10日時点では90日間は猶予とされています。)
最大の影響は、日本企業の輸出収益の減少による国内所得の縮小です。日本は長年、輸出企業が成長を牽引してきました。トヨタや日立といった大手メーカーはもちろん、その下請けや協力企業として関わる中小企業が多く、地域経済を支えています。これら輸出企業の業績悪化は、賞与・雇用・設備投資の抑制をもたらし、間接的に家計所得の減少=国内消費の冷え込みにつながります。
加えて、関税措置が円安を誘発し、輸入価格の上昇→物価の押し上げにつながれば、実質可処分所得はさらに減少します。つまり、所得が減り、物価は上がるという悪循環により、日本の消費者は支出を控える傾向を強め、特に耐久財や外食、小売などの消費支出が減速することが予測されます。
■ 消費低迷が中小企業に与えるダメージ
中小企業の多くは内需依存型であり、消費低迷は直撃弾になります。特に打撃を受けるのは以下の業種です。
●飲食・小売業:外食やレジャーへの支出が抑制され、来店客数や客単価の減少に直結します。
●サービス業:理美容、教育、旅行などの支出は「真っ先に削られる」傾向があり、契約キャンセルや利用頻度の減少に悩まされます。
●製造業(BtoB):大手企業からの発注減少や価格引き下げ圧力により、利益率が悪化し、資金繰りにも支障をきたします。
中小企業は人材・資本・情報面で制約が多く、急な外部環境の変化に脆弱です。売上減少が一定期間続くだけでも、倒産リスクが高まります。
■ 中小企業経営者が打つべき施策
このような状況下で中小企業経営者がとるべき施策は、短期的な収益防衛と、中長期的な構造変化への備えを両立することです。以下に具体策を示します。
◆1.コスト構造の見直しとキャッシュ重視経営
・固定費(特に人件費・家賃・光熱費)の見直しと可変化。
・在庫管理の徹底と仕入れロスの削減。
・補助金等の活用。
◆2.消費志向に合わせた商品・サービスの再設計
・高価格帯から低価格帯への商品ライン拡充や小分け・サブスクモデルへの転換。
・家庭向け(BtoC)への事業転換や「おうち需要」への対応。
・節約志向の消費者向けに「高コスパ」「長持ち」「健康志向」などの訴求軸を打ち出す。
◆3.売上チャネルの分散化と販路開拓
・ECサイトやモール(Amazon、楽天など)での販路強化。
・地方自治体・地域企業と連携した「地域経済圏内取引」の活性化。
・海外(アジア圏)への輸出支援策を活用した新規開拓。
◆4.顧客との関係性の強化
・来店客数の減少を補うため、リピーターづくりやファンマーケティング(SNS・LINE活用)の推進。
・顧客満足度の向上→口コミ・紹介による集客への流れを強化。
◆5.人材戦略の見直し
・正社員にこだわらず、副業人材・パート・フリーランスとの柔軟な連携体制を整備。
・DXや業務効率化ツールの導入で、省力化と労務費削減の両立を目指す。
トランプ関税は一国の政治判断に端を発する外的ショックですが、これを“他責”としてとどまるのではなく、自社のビジネスモデルを見直す契機と捉えることが重要です。これからの時代、外部環境の変動は常態化します。だからこそ、リスク分散、構造転換、収益の多様化、そして変化に柔軟に対応できる経営体制の構築が、中小企業の生存と発展の鍵となります。
厳しい環境の中でも、環境の変化を捉えて行動を起こす企業こそが、次の成長の波をつかむことができます。今こそ、危機をチャンスに変える“変化対応型経営”への転換が求められています。
田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)