vol.675【実践コラム】人件費上昇について

…賃上げ時代に財務を守り、攻めに転じる3つの視点がカギです。

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広

最低賃金の連続引き上げ、求人難に伴う初任給アップ、社会保険料率の上昇等、ここ数年で人件費は確実に膨らんでいます。利益率が薄い中小企業ほど「給与を上げたいが資金繰りがもたない」という声が強まっています。今回は財務目線で人件費高騰に備える3つの視点をお伝えします。

1.「粗利×人件費率」を月次で追う

月次試算表の販管費明細から、総従業員人件費を売上総利益で割り人件費率を算出します。粗利が横ばいで人件費率だけ上がると、営業CFが確実に減少します。まずは毎月の推移をグラフにし、5%を超えて上昇傾向なら即対策を検討します。

2.固定給、変動給を調整する

単純な定額昇給は将来の固定費を押し上げます。基本給は競合と比較して最低限を確保しつつ、売上歩合・利益連動賞与など変動比率を高める設計に切り替えると、好調時には従業員に還元し、不調時にはキャッシュアウトを抑制できます。金融機関が融資審査で見るのは「固定費負担の重さ」なので、変動給が多い給与体系はリスク軽減要素として評価されやすい点も見逃せません。

3.人件費を「投資」化する

賃上げをコストではなく投資と捉え、必ず回収プランをセットにします。例として、平均月2万円の賃上げを行うなら、1人当たり売上を月4万円伸ばすKPIを設定し、ITツール導入や業務フロー見直しで生産性を底上げします。「人材確保等支援助成金」や「業務改善助成金」を併用すれば、キャッシュアウトを最大で半分程度に抑えることも可能です。

■ まとめ

  • 粗利と人件費率を月次で可視化し、早期に上昇トレンドを捉える
  • 固定+変動の給与設計で、利益と連動した支払構造を作る
  • 賃上げは投資と位置づけ、生産性向上と助成金で回収プランを描く

人件費の高騰は避けられませんが、数字で管理し、変動化と投資化でコントロールすれば、財務悪化を防ぎながら従業員満足度も高めることができます。今月の試算表から人件費率をチェックし、3つの視点で自社の打ち手を検討してみてはいかがでしょうか。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)