vol.674【実践コラム】キャッシュ・フロー計算書を経営に役立てる

…営業・投資・財務の3行を読むだけで資金の動きをつかむことがポイントです。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
「PLとBSはチェックしているのに、CF計算書はあまり意識していない」という社長は意外に多いです。しかし、資金ショートは利益ではなくキャッシュの不足で起こります。黒字決算でも倒産する会社があるのはそのためです。今回は、3ステップでキャッシュ・フロー計算書(CF計算書)を経営判断に生かす方法を、事例を交えながら解説します。
■ ステップ1“3行”でざっくり読む
まず、CF計算書を開いたら営業CF・投資CF・財務CFの3行だけを確認します。
- 営業キャッシュフロー(営業CF)
本業で現金がどれだけ増減したかを示します。健全な会社はここが常にプラスです。 - 投資キャッシュフロー(投資CF)
設備投資・株式投資・M&Aなど将来のために資金を使った額です。通常はマイナスでも問題ありませんが、金額が大きいときは調達源を確認する必要があります。 - 財務キャッシュフロー(財務CF)
借入・増資で入ってきた資金や、返済・配当で出ていった資金を表します。理想は「営業CFで足りない分を補う範囲」にとどめることです。
この3行を合計したものが「現預金の増減額」になります。数字がどう組み合わさって現金残高を動かしているのかを、まずは俯瞰しましょう。
■ ステップ2 営業CF黒字化のボトルネックを探す
営業CFが赤字であっても、損益計算書上は黒字というケースは珍しくありません。ここで注目すべき増減項目は2つ、売上債権(売掛金)と棚卸資産(在庫)です。
・売掛金が増える=回収が遅れている
・在庫が増える=仕入に現金が寝ている
この2項目がマイナスなら、帳簿利益がキャッシュに変わっていない証拠です。改善策としては、
- 与信限度を明確にし、回収サイト短縮を取引先と交渉
- 在庫日数を部門別等に可視化し、安全在庫の上限を再設定
- 週次で「回収遅延リスト」を共有し、販売・経理・現場が連携
これだけでも営業CFはプラス方向へ動きやすくなります。
■ ステップ3 投資と財務のバランスを点検する
次に見るのは投資CFと財務CFの大小関係です。例えば新工場建設で投資CFが▲1億円なら、財務CFで同レベルのプラスを調達できているかがポイントです。調達不足だと営業CFで補填する必要があり、資金繰りは急激に逼迫します。逆に投資が少ない時期なのに財務CFが大幅プラス(過度の借入)なら、返済スケジュールの見直し余地があります。
資金繰りの安全余裕(手元資金)を「固定費3か月分」と決め、その範囲で投資・借入・返済を組み替えると、景気変動や急な設備更新でも慌てずに済みます。
■ 事例:小売業B社の改善プロセス
B社は売上 10 億円・経常利益 1,000 万円の黒字企業でしたが、営業CFは▲1,200万円。売掛金60日サイトと季節在庫の積み増しが原因です。
- 回収サイトを 60 → 45 日に短縮、在庫日数を 90 → 65 日に削減
- 半年で営業CF+2,000 万円へ転換
- 投資CF(新店舗開設 1,500 万円)を財務CF(長期借入)で全額賄い、手元資金は3か月分を維持
結果、運転資金の借入負担が減りました。
■ まとめ
- 営業・投資・財務の3行をまず把握し、現金の増減をつかむ
- 営業CF改善の鍵は売掛金回収と在庫の管理
- 投資額と借入額のバランスを取り、手元資金を固定費3か月分確保
CF計算書は専門家だけの資料ではありません。3行と2項目を月次で追うだけで資金ショートを未然に防ぎ、銀行との対話材料も格段に増えます。今月の試算表から簡易CFを作り、ぜひ3ステップで現金の流れを点検してみてください。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)