vol.672【実践コラム】ROICとROEについて

…投資家が本当に見る指標を経営に活かしましょう。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
「資本効率を示す指標はROE」だと思われがちですが、ここ数年、機関投資家や銀行のヒアリングで頻繁に出てくるのはROIC(投下資本利益率)です。ROE が「自己資本(純資産)でどれだけ利益を生んだか」を測るのに対し、ROIC は「株主資本+有利子負債=事業に投じた総資本」で稼いだリターンを示します。つまりレバレッジ(借入)で水増しされない真の稼ぐ力が分かる指標です。
たとえば自己資本1億円、借入4億円、当期純利益1,000万円の会社は ROE10%でも、ROICは2%しかありません。借入に依存した薄利体質では投資家の評価は厳しく、銀行も金利を上乗せする傾向があります。逆にROICを5%→7%へ改善できれば、「追加投資しても十分に回収できる会社」とみなされ、金利引き下げや株主の支援を呼び込みやすくなります。
では中小企業がROICをどう高めるかについて解説します。ポイントは[1]利益率を上げる、[2]投下資本を適正化するの二軸です。利益率向上は価格改定や高付加価値商品の投入など攻めの改善が中心です。一方、投下資本の適正化は在庫日数短縮や遊休資産の売却、不要な借入の返済など、守りの改善が即効性を発揮します。とくに売掛金と在庫は気づかないうちに増える資本食い虫です。月次で回転率をチェックし、不要な資金滞留を防ぐだけでもROICは着実に向上します。
銀行が融資審査で重視する自己資本比率や債務償還年数は、数式に置き換えるとROICの変形です。つまり、ROICの改善策は銀行格付けの改善策と重なる ということです。投資家向けIRを意識した取り組みが、そのまま金利低減や借入枠拡大につながる好循環が期待できます。
まずは自社のROICを算出し、主要取引銀行へ共有してみましょう。[1]〔営業利益÷(自己資本+有利子負債)〕で計算し、業界平均と比較するだけでも課題が見えてきます。その上で「次年度に ROIC を○%へ引き上げる」という目標を掲げ、利益率と回転率の改善施策を月次レポートで報告すれば、銀行・投資家双方からの信頼度は確実に高まります。
ROEは決算書で簡単に見える指標ですが、レバレッジの影響を排除した ROIC こそが、投資家・銀行の本音の評価軸です。利益率の向上と投下資本のスリム化、この2点を月次でチェックし、ROIC を継続的に高める体質づくりに取り組みましょう。
それが結果として、資金調達コストの低減と企業価値の向上を同時に叶える最短ルートになります。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)