vol.670【実践コラム】新会社設立による資金調達の現実

…テクニック頼みの資金調達が失敗に終わる理由を考えます。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
「本体の業績は伸び悩んでいる。だから事業Aだけを切り出して新会社を作り、ゼロから資金調達できないか」。このような相談をお受けすることが、しばしばあります。しかし結論から言えば、株主も代表者も同じままでは“新会社”とは見なされず、融資の扉はほぼ開きません。
まず、日本政策金融公庫や信用保証協会は「事業の実態」を重視します。法人番号が変わっても、経営者と株主が同一なら“同じ会社”と判断され、既存企業の評価(赤字・リスケ中など)がそのまま反映されます。
民間銀行が無担保・無保証のプロパー資金を、新設法人にいきなり出すことも極めてまれです。
「では株主と代表者を他人に替えれば?」という声もあります。確かに形式上は可能性が残りますが、それはもはや自分の事業ではなく、資金調達の権利も意思決定も他者の手に渡ることを意味します。新会社の経営者として責任が取れないまま資金調達に成功しても、その後の経営が順調に進む保証はありません。むしろ、経営権と資金コントロールを失うリスクが高まります。
金融機関が見ているのは「数字」と「態度」です。赤字でも、借入のリスケ中でも、改善計画に沿って着実に利益を積み直す姿勢こそが最大の信用回復策です。実績を積み、約束を守り、報告を徹底する。地味ですが、これ以外に扉を開く方法はありません。
もちろん、新会社設立を完全に否定するわけではありません。事業を守るための法的整理や持株会社化など、合理的な再編が必要な場面もあります。ただし前提は、「既存会社が示した誠実な改善の軌跡」です。そこを飛ばして“形だけの別会社”に逃げ込んでも、信用はゼロどころかマイナスからのスタートになります。
金融機関は努力の痕跡を数字で測ります。赤字縮小→単月黒字→通期黒字、この階段を上る企業には、確実に追加融資の可能性が拡がります。「信用は借り換えできない」。だからこそ、自社の帳票に一つでも多くの黒数字を刻むことが、次の資金調達を呼び込む最短ルートになります。
もし改善の階段を上れないままでは、残念ながら市中金融機関からの調達は現実的ではありません。その際は、個人的な支援者や事業パートナーを探し、別ルートでの資金確保を検討することになります。
形式だけを変えても評価の土台は変わりません。まずは本業の改善と信頼の回復を図り、その上で組織再編や新会社設立を検討することが、結果的に最短ルートとなります。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)
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