vol.606【実践コラム】倒産の選択肢と経営者の決断

…法的整理から自力再建まで、事業継続の可能性を探りましょう。

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広

帝国データバンクによると、2023年の倒産件数は、前年から30%以上増加し、バブル崩壊以来の高い増加率となったそうです。また、2024年4月にゼロゼロ融資の返済開始がピークを迎えることで、倒産件数がさらに加速すると見られています。

物の本によれば、倒産とは企業が債務の支払いができなくなったり、経済活動の継続が困難になった状態を指します。倒産には法的倒産と私的倒産の二つのタイプがあり、法的倒産には再建型の会社更生法や民事再生法、清算型の破産や特別清算の四つに分けられます。私的倒産は銀行取引停止と内整理に分類されます。

しかし、困難な状況に直面しても、倒産せずに事業を継続している経営者もいます。家賃や人件費の支払いができない、返済ができないという状況でも、倒産するわけではありません。基本的には経営者の意思で法的整理や私的整理などの措置を取ることで初めて倒産となります。倒産するかどうかは経営者次第です。

例えばある社長は、第三者からの資金支援を受けて事業拡大に挑戦しましたが、新しく出店した店舗がうまくいかず、会社全体の資金繰りが悪化しました。結局、新店舗の撤退を決断したところ、スポンサーからの支援が打ち切られ、これまでの支援資金の返済を強く求められるようになりました。

ご相談に来られた時は、倒産以外に選択肢がないと思っていましたが、倒産するかどうかは社長次第であることを説明しました。「債務免除を受けて今が楽になっても、すぐには就職できないし、収入がなくなるのは困る。止めることはいつでもできるので、もう少し頑張ってみよう」という結論に至りました。

資金繰り予測を立ててみると、銀行と大家の協力があれば何とかなることがわかりました。計画書を作成して銀行と大家に相談したところ、大家は延滞分の分割払いに、銀行は返済猶予に快く応じてくれました。

約一年後、売上は大きく減少しましたが、わずかながら黒字決算となりました。スポンサーからの嫌がらせも徐々に収まっているようです。社長は「この調子でいけば債務の返済も少しずつできそうだ。一年前は現状から逃げることばかり考えていたが、逃げなくて良かった。恐ろしいほどメンタルが強くなっただけかもしれないが、今考えると何てことはない」と笑っていました。

この選択が正しかったかどうかは分かりませんが、倒産しないというのも一つの選択肢です。事業継続の可能性を探りたい方は、是非ご相談してください。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)