vol.352【経営コラム】アイデアを創造するメカニズムとは…

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司


…「胆力」とは何か?「よく考える」とはどういう意味か?

■多くの偉人が、経営者に必要な資質の一つに「胆力」を挙げておられます。
「胆力」とは何か?を考察してみましょう。

・新しいビジネスモデルを創造する。
・高付加価値の商品やサービスを新たに開発する。
・新しい販売方法を考える。
・効率的な業務の運営方法を考える。
・有事に対応する。
等々

●何かを考えるという行為は、大きな力を必要とします。なかなか思いつかないことを頭の中から絞り出す、小さなひらめきに論理的な積み上げや検証を繰り返す、来る日も来る日も、そして行き詰っては元に戻り、そして前進する…相応の何かを創造しようとすれば、わからないことを考え続ける力が必要です。
このプロセスに長期間耐え得る力を「胆力」と定義すればわかり易いはずです。

●日本の経営学の大家・伊丹敬之先生は著書の中で以下のように言及しておられます。「知力は論理を要求する。しかし、論理的に考えるからといって、『最後の結論は論理的には不明確です』だけでは行動はとれない。わからないことはわからないなりに認めて、しかし一定の方向が正しいであろうと自分なりに納得する結論に至る論理を構築できるための知力。それが、行動のバイタリティーを生み出すのにもっとも重要なのである。では、知力を生み出す知のエネルギーとは何だろうか。それは、わからないなりに考え抜くための『考える』プロセスを耐えるエネルギーであり、そのプロセスでの論理の積み上をきちんとできる脳と心のエネルギーである。」
(「よき経営者の姿」日本経済新聞社、伊丹敬之氏著より引用させていただきました。)

■「よく考える」…この意味をよく考えてみましょう。

●企画やアイデアは偶然思いつくようなものではないはずです。
自分の頭に考えさせて、思いつかせるものです。漠然と求めるものがあって、求めるもの自体も明瞭でない状況から、雲をつかむようにアイデアのかけらを寄せ集める、寄せ集めてみても形にならない、 再度バラス。また、寄せ集めてみる、少し形が見えてくる、使い物にならないので一部を残してバラス。何かが足りないので、仮説を立てて外部からも情報を集める。時に何千回・何万回も繰り返しながら創り上げる…これが企画やアイデアの正体です。この過程で、脳細胞が何度も音を立てて破裂するぐらいの勢いで考えることが必要でしょう。

■「よく考える」ために必要な能力こそが「胆力」です。

●経営者には、「胆力」が必要です。そして、「胆力」を持ち続けるためには、常に高いレベルのエネルギーを維持しておかねばなりません。伊丹敬之先生のお言葉を借りるなら「…わからないなりに考え抜くための『考える』プロセスを耐えるエネルギーであり、そのプロセスでの論理の積み上をきちんとできる脳と心のエネルギー…」です。故に、「胆力」を有することは、経営者にとって極めて重要な資質であって、かつ、その欠落は致命傷であると言われるゆえんです。

●本田技研工業の第二の創業者と言われる名経営者の藤沢武夫氏は、以下の言葉を残して引退されました。
「三日間くらい、寝不足続きに考えたとしても間違いのない結論を出せるようでなければ、経営者とはいえない。平常のときには問題がないが、経営者の決断場の異常事態発生のとき、年齢からくる粘りのない体での『判断の間違い』が企業を破滅させた例を多く知っている。…」
(「藤沢武夫の研究」かのう書房、山本祐輔氏著より引用させていただきました。)

アイデアが出ないのは、「胆力」が足りないから、「考えが足りない」からです。上記の偉人の定義を踏まえた上で、今一度自社の経営について「胆力」を使って「よく考えて」みてはいかがでしょうか。答えはどこかに必ずあるはずです。自社の経営の解は、経営者自らが見つけ出すしかありません。

マラソンを完走するためには「体の体力」が必要です。一方、考えるためには「脳と心の体力」が必要です。意識して「脳と心」を強化したいものです。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)