vol.261【実践コラム】創業時(新規事業)の資金調達について

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広


…創業者の資金調達環境を正しく認識することが大切です

創業して3年以内に7割の会社が廃業すると言われます。新規事業を軌道に乗せることは本当に難しいことですが、7割の中には、創業融資に関する正しい知識があれば、廃業を防げたケースもあると感じます。

■ 創業融資に関する知識が不足しているケース
そもそも融資を受けるつもりがない創業者の方も多くいらっしゃいます。これらの方々は、自己資金だけで事業を軌道に乗せる計画を立てているため、創業時には資金調達に関する情報収集を行っていません。そして、計画通りに事業が進捗しなかった時に、初めて資金調達に関する情報を集め始めます。しかし、計画通りに事業が進捗していないときに融資を受けるのは難しいため、結局資金が調達できずに事業の継続を断念することになります。

創業してから事業を軌道に乗せるまでの間に資金が調達できるポイントは、乱暴に言うと2回しかありません。1回目は創業前か創業してすぐのタイミング、2回目は単月黒字化を果たして累積赤字が縮小していくタイミングです。1回目の資金調達ポイントをスルーしてしまうと、次は単月黒字化を果たすまで資金調達ができないことを最初から知っていれば、資金が底をついてからではなく、創業時にしっかりと資金調達を行っていたはずです。資金調達が可能なポイントを知っていれば、廃業は免れたかもしれません。

■ 自身の資金調達力を見誤っているケース
資金調達の重要性は理解しているものの、調達可能な金額を見誤っている創業者の方も多くいらっしゃいます。貸し手の気持ちになって考えると分かりますが、7割の方が廃業すると統計が出ている創業者に対して、積極的に融資をしたいと考える金融機関は多くありません。創業融資は借りること自体が難しいにも関わらず、大きな金額を調達できると考えるのは危険です。

例えば、自己資金500万円に対して、事業を軌道に乗せるのに3,000万円の運転資金が必要になる計画を立てると、資金が行き詰る可能性が高くなります。創業融資で2,500万円を調達するのは一般的に困難なためです。1回目の調達ポイントである創業時に、2,500万円全額を調達できれば問題ありませんが、仮に1,000万円しか調達できなかった場合、「とりあえずスタートして資金が不足したら次をあたろう。」と考えてスタートすると、結局、2回目の調達ポイントが来る前に資金が不足して、事業の継続を断念することになります。

大きなビジネスを目論む創業者の正しい資金調達方法は、調達のポイントが「創業時」と「軌道に乗り始めた時」の2回しかないことを知っていれば、必然的に次のようになります。

【間違った資金調達プラン】
3,000万円を投資して、2年かけて軌道に乗せるビジネスプランで2,500万円を調達する。(自己資金500万円)

【正しい資金調達プラン】
1,500万円を投資して、1年で軌道に乗せるビジネスプランで創業時に1,000万円を調達する。(自己資金500万円)
そして軌道に乗った1年後に、追加で1,500万円を調達する。

ビジネスにおいて、大きな金額をまとめて調達して、一挙に事業を立ち上げたいとの考えも理解できますが、創業時は、一度に大きな資金調達は望めませんので、「こまめに実績を上げ、調達回数を増やして調達額を大きくする。」という方法を取らざるを得ません。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)