vol.212【実践コラム】資金繰表による経営管理のすすめ

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広


…正確な試算表を作成するのが難しい企業様への提案です

毎月の経営状況を正確に把握できる資料は「試算表」です。多くの経営者様が試算表を見て、「売上が上がっている。」とか、「利益が減っている。」などの状況を確認し、日々の経営判断に役立てておられます。
しかし、もし試算表そのものが間違っていれば、そこから下される判断も間違ってしまう可能性が高くなります。自社の状況を鑑みて、正確な試算表を作成するのが難しいと考えるならば、思い切って、もっと簡素な管理方法に切り替えるのもひとつの解決方法です。試算表ではなく資金繰表です。

財務体質の強化に取り組んでおられる企業様の事例です。数か月前から関与をスタートし、オブザーバーとして月1回のミーティングに参加してきました。ミーティングの参加者は社長、取締役、経理担当者です。毎月、経理担当者が作成した試算表をベースに議論を行います。

(経理担当者)
「先月の売上高は昨年対比伸びましたが利益は減っています。」
(社長)
「A社さんで値引したからじゃないかな。」
(取締役)
「いや、工場の人件費が増えたからではないでしょうか。」
(全員)
「うーん・・・」

昨年対比、売上高が伸びたにも関わらず、減益となった要因について、1時間程議論がなされて会議は終わりました。会議の結論は、毎回「もっと売上を伸ばそう。」で締めくくられます。

しかし、そもそも減益ではなく増益だった可能性があります。

実際は減益ではなかったと考える理由は、試算表に在庫が反映されていないためです。仕入額がそのまま原価となっており、先月68%だった原価率が今月は77%になっています。明らかに異常な増加です。同社の平均原価率は70%ですので、今月は単純に仕入が多かっただけで、在庫を考慮すれば実際は増益だった可能性が十分にあります。

年商3億円未満の中小企業においては、正確に試算表を作成する機能が備わっていないことが多いため、実は、同社のように不正確な試算表で経営判断がなされているケースも多いのではないかと感じます。しかし、正確な試算表を作成するためには、財務に精通した人材を雇用したり、毎月棚卸を行ったりしなくてはならないため、負担が大きくなります。よって、正確な試算表を作成することに固執せず、思い切って、キャッシュの動きだけをまとめた「資金繰表」を、経営管理ツールにすることを提案します。

企業が最も注意を払わなくてはならないのは、赤字になることよりも資金を切らすことです。この点において、資金繰表の方が試算表よりも資金の動きが良く分かります。また、在庫額、売掛金、買掛金、減価償却費など、実態を把握しにくい項目は最初から考える必要はありませんので、作成も簡単です。不正確な試算表を管理ツールとするより、正確な資金繰表を管理ツールとした方が、効率的かつ効果的かもしれません。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)