vol.157【経営コラム】コストダウンは、品質維持に優先してしまいます

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・一般社団法人銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司


…安売りは、創造力を奪います。

■上代140円のお茶(ペットボトル)を製造するメーカーA社と、それを仕入れる販売店B社のやり取りを紹介します。
仕入れ価格はわかりやすく50%の70円とします。

○ケース1:B社の担当者は、A社の担当者に向かって、「上代を130円に値下げするから、仕入れ価格も5円下げて欲しい。
ただし、品質は落とさないでください。」と言ってきました。


○ケース2:B社の担当者は、A社の担当者に向かって、「上代を150円に値上げするから、仕入れ価格も5円引き上げます。
もっとおいしい商品を作って欲しい。」と言ってきました。

ケース1のA社では、すさまじい勢いでコストダウンに対する検討が始まります。
「品質を落とさずにコストダウンを行う」とする当初の目標は、最後には「要は下げればよい」に変わってしまいます。
必ずそうなります。

ケース2のA社では、より良い商品を作ろうとする取り組みが始まります。
原材料から製法、パッケージのデザインまで見直しが始まります。

■原料コストの上昇などを価格に転嫁するかどうか?その対応方法で、結果が変わります。

○ケース1:
「原料コストの上昇を価格に転嫁すれば売れなくなる。転嫁せずに我慢しよう。」

○ケース2:
「原料コストの上昇を価格に転嫁せざるを得ない。それでもお客様が離れないように商品を磨こう。」

ケース1の会社は、原料コストの上昇を価格に転嫁しない、利益をあきらめる、これが戦略です。
価格に転嫁しない、これ以上の知恵や努力を必要としません。

ケース2の会社は、原料コストの上昇を価格に転嫁する代わりに、その分以上の付加価値の向上を図る努力をする、これが戦略です。
大変な知恵と努力が必要になります。

■ケース1は共に安売りの戦略です。

顧客を維持・確保するために自分の利益をあきらめることをその主たる戦略としています。
・市場の動向に対して、その価格を調整弁として活用しています。
・その分利益は減ります。(または、品質を落とします。)
・それ以外の知恵や努力は必要としません。
・より良いものを創造しようとする知恵や活力を失ってしまいます。
品質を維持しながらコストを下げるとする目標は、ある一線を越えた時に崩れます。
品質維持よりコストダウンが勝ちます。必ずそうなります。

■ケース2は付加価値アップ戦略です。

顧客を維持・確保するために自社の商品・サービスの付加価値の向上を図ろうとする戦略です。
・市場の動向に対して、その付加価値を調整弁として活用しています。
・利益は確保できます。
・より良いものを創造しようとする知恵や活力が要求されます。
付加価値アップのための知恵や努力を常に追求し続けていく社風が必要です。
より良いものを創造する文化が社内に根付きます。必ずそうなります。

■安売り戦略は大変難解な経営戦略です。

・「品質を維持しながらコストを下げるとする無茶な目標」を厳守させる仕組みが必要です。無茶です。論理が崩壊しています。
 ※長期デフレの環境下では、(一定の)論理の整合性がありましたが…
・「コストをかけてでもより良いものを創り出す」とする知恵を奪い続けます。

■付加価値アップ戦略こそ王道です。

・「原価を要しても、より良いものを創造する」この至極当然な企業活動が行われます。
・良いものを創り出すための正当な努力が持続されます。

安売り戦略の大罪は、良いものを創り出そうとする知恵を奪い取ることです。
この愚策を長年続けている集団から、新たな商品やサービスを創り出す創造力は生まれません。
商品やサービスの価値と価格のバランスは、その価格を下げて市場に合わせるのではなく、その価値を向上させることで調整してください。多くの偉人たちが語る経営の王道です。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 一般社団法人銀行融資プランナー協会代表理事)