vol.735【実践コラム】増加運転資金の手当ての順番について

…まず減らし、次に守り、それから借りる。この順番が成長を支えます。

(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広

「売上は伸びているのに、どうして借りなければいけないのでしょうか。」

成長している会社の社長から、この言葉を何度も聞いてきました。業績が上向いているときほど、借入への抵抗感は強くなります。順調だからこそ、借りることが後ろ向きな行為に感じられるからです。前回は、売上が伸びる前に資金が先に出ていくという増加運転資金の構造をお話ししました。今回は、その資金をどう手当てするかを整理します。手当てには3つの手段があり、そこには順番があります。

最初の手段は、寝る資金そのものを減らすことです。増加運転資金の議論は、どこから資金を用意するかに向かいがちですが、その前に、必要額を小さくできないかを考えます。A社の1,600万円のうち、およそ1,250万円は売掛金でした。回収まで最大45日かかるからです。仮に回収サイトを45日から30日に短縮できれば、寝る売掛金は約830万円まで下がり、400万円ほどの資金が浮きます。売上が1.5倍になったときの増加運転資金も、同じ比率で小さくなります。回収条件のほかにも、一部でも前受金をいただく、仕入先に支払条件の見直しを相談する、在庫の滞留を短くするといった打ち手があります。見落とされやすいのは、成長局面は交渉力が上がる局面でもあるという点です。受注が増えている会社は、取引先にとっても失いたくない相手になっています。条件の見直しを持ち出すなら、伸びているときが好機です。

2つ目は、自己資金で賄うことです。一見すると最も健全に見えますが、注意が必要です。自己資金で増加運転資金を埋めるということは、手元の緩衝材を事業に張りつけるということにほかなりません。以前のメルマガでもお伝えしたとおり、手元資金を使いきったあとで金融機関に相談すると、話は難しくなります。成長局面は、受注の振れや入金の遅れなど、不確定な要素も増える時期です。自己資金で賄ってよいのは、基準となる残高を守ったうえで、なお余っている部分に限られます。

3つ目が、借入です。順番としては最後ですが、増加運転資金は、融資の資金使途として最も筋が通るものの1つです。なぜ必要かを、売上計画と取引条件から数字で説明できるからです。「売上をここまで伸ばす計画があり、この取引条件では追加でこれだけの運転資金が寝る」という説明には、明確な根拠があります。銀行に対しては、決算書や試算表に加えて資金繰り表をそろえ、なぜこの資金が必要になるのかを数字で示せると、相談は前に進みやすくなります。冒頭の社長の問いに答えるなら、借りるのは業績が悪いからではなく、伸ばすためにあらかじめ必要な資金だからです。

そして、3つのどれを選ぶにしても、タイミングは伸びる前です。支出が先で入金が後だからこそ、資金の手当ては売上より前に済ませておく必要があります。伸びたあとで手元が薄くなってから相談すると、順調な会社であるにもかかわらず、なぜ足りないのかを説明しづらくなります。

減らして、守って、それから借りる。この順番で増加運転資金に向き合う会社は、成長の勢いを資金繰りの不安に変えずに済みます。

次回は、成長に伴うもう1つの資金需要、人の採用や設備の増強といった固定費の増加を取り上げます。運転資金とは違い、こちらは売れても戻ってこない支出です。

尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)