vol.747【経営コラム】成功企業に学ぶ「選ばれる理由」のつくり方

…中小企業こそブランドで勝てる

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

前回まで、ブランドとは単なるロゴや広告ではなく、「価格ではなく価値で選ばれるための経営資産」であるとお伝えしてきました。では、実際に中小企業はどのようにブランドを構築すればよいのでしょうか。

ブランドというと、Appleやトヨタ、ルイ・ヴィトンのような大企業を思い浮かべがちです。しかし、中小企業こそブランド戦略が重要であり、ブランドによって大きく変わることができると考えています。実際の事例を見てみましょう。

■事例① マルヒロ「HASAMI」― 下請けから自社ブランドへ

非常に分かりやすい事例が、長崎県波佐見町の陶磁器メーカー、マルヒロです。波佐見は長く有田の下請け産地として陶磁器を生産してきました。マルヒロも厳しい経営環境に置かれ、一時は借入金が売上高の1.5倍に達するほどでした。そこで中川政七商店の経営支援を受け、商品開発から経営管理、流通までを見直し、2010年に自社ブランド「HASAMI」を立ち上げます。
特徴的だったのは、単に「高品質な波佐見焼」として売らなかったことです。伝統工芸という見せ方から離れ、現代のライフスタイルに合ったデザインや世界観を構築しました。代表的なマグカップはデザイン性だけでなく、スタッキングできる機能性も評価され、セレクトショップなどへ販路を拡大。現在では全国約700店で取り扱われるブランドへ成長しました。

ここから学べるのは、「良いものをつくること」と「ブランドをつくること」は違うということです。技術力に、デザイン、コンセプト、ネーミング、販売方法、情報発信を加えることで、単なる「陶磁器」から「HASAMI」という指名される商品へ変わったのです。

■事例② HILLTOP ― 「何でもできる町工場」から脱却

京都のHILLTOPも興味深い事例です。同社はアルミ部品などの加工を行っていますが、単に「金属加工ができます」とは訴求していません。現在、試作品について「新規5日、リピート3日(表面処理込み)」という具体的な短納期を掲げ、図面がない段階からの相談にも対応しています。

これはBtoB企業のブランド戦略を考えるうえで重要です。
「技術力があります」「高品質です」「何でもできます」という会社はたくさんあります。しかし、「試作・短納期ならこの会社」という明確なポジションを取れば、顧客の頭の中に会社の名前が残ります。ブランドとは有名になることではありません。特定の問題が発生したときに、最初に思い出してもらうことなのです。

■事例③ 中川政七商店 ― 伝統を「現代の価値」に変える

奈良で1716年に創業した中川政七商店も、ブランド経営を考えるうえで参考になります。
同社は工芸を単に「古くから伝わる伝統」として売るのではなく、「日本の工芸を元気にする!」という明確なビジョンを掲げています。現在は全国800を超えるつくり手と商品をつくり、約60店舗やWebなどを通じて消費者へ届けています。

重要なのは、ブランドが商品だけにとどまっていないことです。商品開発、店舗、情報発信、工芸メーカーの経営支援まで、すべてが「日本の工芸を元気にする!」という一つの軸でつながっています。その結果、2026年2月期には売上高103億2千万円と初めて100億円を突破し、4期連続で過去最高業績を更新しました。

■成功企業には共通点がある

この3社を見ると、ブランド構築には共通する原則があります。
第一は、「誰に売るのか」を明確にすることです。
第二は、「何によって選ばれるのか」を明確にすることです。
第三は、その価値を商品、サービス、デザイン、営業、店舗、情報発信まで一貫させることです。
そして第四は、「○○なら当社」というポジションをつくることです。

中小企業は、大企業のように何十億円もの広告費を使う必要はありません。むしろ対象を絞り、狭い市場の中で圧倒的な存在になる方が現実的です。「何でもできます」という会社ではなく、「この分野なら絶対に負けない」。「この問題なら、まず当社に相談してほしい」。そう言える領域をつくることです。

ブランドとは会社を格好よく見せることではありません。自社の強みを明確にし、それを顧客価値へ変換し、長期間にわたって約束を守り続けることです。
価格競争では、規模の大きな会社が有利です。しかし価値競争では、小さな会社にも十分に勝機があります。だからこそ、中小企業経営者の皆様には、ぜひ一度考えていただきたいと思います。

「○○なら当社」と言われる、その○○は何でしょうか。その答えを明確にすることが、ブランド構築の第一歩です。そして、そのブランドが価格決定力を生み、利益を生み、最終的には会社そのものの企業価値を高めていくはずです。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)