vol.720【実践コラム】借入金を前向きに活用する考え方について

…借入は悪いものではなく、会社の資金繰りを安定させるための手段です。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
七月は、借入金との付き合い方をテーマにお話ししていきます。六月は資金繰り悪化の初期サインと、金融機関への相談の進め方を整理しましたが、資金繰りを守るうえで、借入金をどう考えるかは非常に重要なテーマです。
借入金に対して、できるだけ少ない方がよいと考える社長は少なくありません。もちろん、返済できない借入や使途が曖昧な借入は危険ですが、その一方で、借入を避けすぎることで、かえって資金繰りが不安定になる会社もあります。
特に注意したいのは、手元資金を使い過ぎる判断です。預金があるから自己資金で払う、融資の手続きが面倒だから借りずに済ませる。こうした判断は、その場では借入を増やさずに済むため、一見すると健全に見えるかもしれません。しかし、手元資金が薄くなったあとで金融機関に相談しても、思うように融資が受けられないことがあります。
金融機関は、資金使途に応じた融資を基本としています。設備投資であれば設備資金、仕入れや売掛金の増加であれば運転資金、納税であれば納税資金というように、何に使う資金なのかが明確であるほど、融資の話は進めやすくなります。反対に、すでに手元資金で設備投資を済ませたあと、預金が薄くなったから運転資金を借りたいという相談になると、金融機関の見方は変わってきます。
運転資金には、貸借対照表から見た一定の限度感があります。
売掛金や在庫、買掛金などから見て、すでに必要運転資金に対する借入が十分にある場合、新たな融資は難しくなります。だからこそ、借入は困ったときだけの手段ではなく、資金使途が発生した時点で丁寧に組み立てるものだと考えています。設備が発生したら設備資金として借りる、運転資金が必要になる見込みがあれば基準を割る前に相談する。こうした積み重ねが、会社のキャッシュポジションを守ります。
ここで基準になるのが、最低でも月商一か月分以上のキャッシュを維持するという考え方です。借入を使う目的は、単にお金を増やすことではなく、手元資金を厚く保ち、資金繰りの選択肢を残すことにあります。キャッシュポジションが安定している会社は、仕入れ、投資、採用、価格交渉、金融機関対応のすべてに余裕が生まれます。
借入金は、会社を弱くするものではありません。使い方を間違えると負担になりますが、資金使途に合わせて計画的に活用すれば、会社を守る力になります。大切なのは、借りるか借りないかではなく、何のために、どのタイミングで、どの条件で借りるかという視点です。
七月は、借入金を前向きに活用するための考え方を、返済、借換、設備資金、運転資金の観点から整理していきます。借入を怖がりすぎず、借入に頼りすぎず、資金繰りを安定させる道具として使う。この視点が、会社の財務を強くします。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)

