vol.688【実践コラム】自社の調達力を把握する

…資金繰り計画の前に“いくら借りられる会社なのか”を知ることが第一歩です。
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
多くの資金繰り表は、核心となる視点を欠いたまま運用されています。
資金繰り表は、「いくら資金を調達できるか」を織り込んでこそ、実務に耐える計画となります。
たとえば、6か月後に資金が不足すると予測できても、「そのとき自社はいくら借りられるのか」「どの金融機関が応じてくれるのか」がわからなければ、対策を立てることはできません。つまり、資金繰り計画の精度は“自社の調達力をどれだけ正確に把握しているか”で決まるのです。
■ 調達力を測る2つの基本指標
1.売上高借入比率
「借入金残高 ÷ 年間売上高 × 100」で算出します。
企業の規模に対して借入金がどの程度あるかを示す、最も基本的な指標です。
- 一般的な目安は 50前後です。
- 70%を超えると、銀行は「これ以上借入を増やす余地が少ない」と判断しがちです。
- 逆に40%以下で安定した利益が出ていれば、追加融資の余地があると見られます。
この数値は“借入の全体バランス”をつかむための指標ですが、同時に「返済力」を示す指標とあわせて見ることで、より実務的に使えます。
2.債務償還年数
「借入金残高 ÷(税引後利益+減価償却費)」で求めます。
いまの利益水準で全借入金を返すのに何年かかるか、という指標です。
- 10年以内:健全な範囲。
- 10〜15年:注意が必要(新規融資は限定的)。
- 15年以上:返済能力に問題ありと判断されることが多い。
銀行はこの債務償還年数を非常に重視します。
「10年を超える」会社には、新規融資ではなくリスケの可能性を検討するケースもあります。
経営者がこの数値を理解していれば、銀行との対話でも現実的な調達感を共有できます。
■ 補助指標:自己資本比率
「純資産 ÷ 総資産 × 100」で算出します。
会社の安全性を測る指標であり、金融機関はこれを“安全性”の指標として見ています。
- 一般的には 20%以上が一つの目安。
- 10%を下回ると、財務基盤の弱さがネックになります。
自己資本比率が高いほど、将来の赤字や減益にも耐えられるため、銀行の評価では「借りやすさ」につながります。
■ まとめ:資金繰り表を“経営ツール”に変える
資金繰り表を作る目的は、数字を並べることではありません。
“資金が足りなくなる前に、どの程度まで調達できるかを見通す”ことにあります。
- 売上高借入比率で 全体のバランスを知り、
- 債務償還年数で 返済力の限界を把握し、
- 自己資本比率で 財務の耐久力を確認する。
この3つを組み合わせて見ることで、資金繰り表が「絵に描いた餅」ではなく、実際に使える財務戦略ツールになります。
経営者は資金を“借りる力”を知ることで、初めて安心して未来を描けます。資金繰りの予測精度は、財務の理解度に比例します。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)

