vol.705【経営コラム】デフレ経済からインフレ時代への転換にどう備えるか

…35年ぶりのパラダイムシフトを認識しよう!

(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

日本の中小企業は1990年代以降、長期にわたるデフレ経済の中で価格競争やコスト削減に苦しみながらも、創意工夫と粘り強さで経営を続けてきました。しかし今、経済は大きな転換点を迎えつつあり、物価上昇や人件費の高騰といった「インフレ経済」への移行が進んでいます。これまでのデフレ型経営から脱却し、変化に即した経営戦略へと舵を切ることが、今後の企業存続と成長の鍵を握ります。

■1.デフレ的思考の限界

デフレ下では「価格を下げて売上を守る」「コストを削ることで利益を確保する」といった戦略が主流でした。こうした努力は確かに企業の生き残りに貢献してきましたが、同時に設備投資や人材育成が後回しになり、結果として企業体質の弱体化や事業承継の困難化を招いている例も少なくありません。

■2.インフレ時代の新常識と対応策

インフレ下では、物価やコストの上昇にどう対応するかが経営の生命線となります。以下に、今後の中小企業に求められる具体的対応策を示します。

●1.価格転嫁と価値の可視化

価格上昇は避けられない現実です。重要なのは「価格=価値」であることを顧客に理解してもらう工夫です。単なる値上げではなく、品質改善、アフターサービス、地域密着などの付加価値とセットで伝えることで、納得感を高めましょう。

●2.攻めの投資への転換

長らく控えてきた設備更新やIT投資、人材育成に再び目を向ける時期です。インフレ下では現金の価値が下がるため、将来の成長を見据えた積極的な資金活用が必要です。特に、業務効率化や自動化は人手不足対策にもつながります。

●3.財務戦略の見直し

資金の「貯め込み」ではなく「回し方」が重要になります。必要に応じて借入を活用し、キャッシュフローを健全に保ちつつ、企業価値を高める投資に振り向けましょう。

●4.経営資源の選択と集中

インフレ期は、あらゆる分野でコストが上昇するため、手広く事業を展開するよりも、収益性の高い分野に経営資源を集中させる「選択と集中」が効果的です。強みの見直しと、商品・サービスの絞り込みが求められます。

■3.まとめ

◆「安さ」より「価値」の発信へ
価格競争から脱却し、独自の価値を訴求できる企業に変わりましょう。

◆人材を「コスト」ではなく「資産」と捉える
採用・育成・定着を重視し、人を育てる経営へと転換を。

◆情報収集と意思決定のスピードを高める
インフレは変化が早く、柔軟な対応力が試されます。現場や市場の声を即座に経営に反映できる体制づくりが必要です。

「失われた30年」を乗り越えた皆様の経営力は、何よりの財産です。しかし、これからの時代には、過去の成功体験だけでは通用しない局面も増えていくでしょう。今こそ、「変わる勇気」と「進化する知恵」が求められています。不確実性が高まる中であっても、インフレという新たな環境をチャンスと捉え、企業価値を高める経営に挑んでいただきたいと願っております。

田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)