vol.689【経営コラム】新規事業で狙うべき成長分野

…“変化の時代”にこそ、ニーズが生まれる
(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
2025年の日本は、少子高齢化・人口減少・デジタル化の進行、そして価値観の多様化といった大きな変化の中にあります。こうした時代には、「社会の課題をビジネスで解決する」ことこそが、事業成功の鍵となります。これから新規事業を始めるなら、次の4つの分野が成長性・実現性ともに高く、特に中小企業や個人事業者にも適しています。
■1.高齢化社会対応型サービス
高齢化が進む日本において、介護や医療だけでなく、その“周辺サービス”にビジネスチャンスがあります。中でも、現場に寄り添った小規模サービスは参入障壁が低く、地域密着で展開できます。
●事例:シニア向け「おでかけ支援サービス」
神奈川県で創業した個人事業主が始めた「まごころ送迎サービス」は、高齢者を病院・スーパー・趣味の教室などに送迎する有償サービスです。介護タクシーではないため資格不要で始められ、口コミで顧客が広がりました。今では月に200件超の利用があります。
その他にも、配食サービス、買い物代行、訪問美容・ネイルなど、日常支援系サービスが高齢者層に広がっています。
■2.地域密着型DX支援(中小企業デジタル化)
中小企業や個人商店の多くは、「デジタル化したいけど、やり方がわからない」と感じています。特に地方では、IT企業との接点が少ないため、身近な支援者が求められています。
●事例:飲食店向け予約管理ツールの導入支援
広島県の30代創業者が立ち上げた「ミセデジ」は、個人飲食店にLINE予約システムや無料POSレジを導入し、集客と業務効率化をサポートしています。導入費用を補助金で賄うことで、顧客負担を抑えながら自社の利益も確保しています。
このように、「難しいITを、わかりやすく手伝う」姿勢が重宝され、継続的な支援契約にもつながっています。
■3.生成AIを活用した業務支援
ChatGPTなどの生成AI技術は、日常業務やマーケティングの現場で急速に普及しつつありますが、実際の活用は一部に留まっています。この“活用の壁”を超えるサポートが、今後大きな市場になります。
●事例:中小企業向け「AI活用コンサルティング」
大阪のベンチャー企業「ライトAI」は、製造業の現場向けに、ChatGPTを活用した「クレーム対応メール」「マニュアル作成」「営業トーク例」などを自動化する仕組みを提供しています。定額サブスク型で月額3万円から導入可能にしたところ、ITに疎い企業からの引き合いが急増しました。
小規模事業者向けにAIの“使い方”と“効果の見える化”を支援することが、今後の収益源となります。
■4.教育・リスキリング(大人の学び直し)
人生100年時代、働き方が多様化する中で、「学び直し」や「スキル転換」を支援するビジネスが伸びています。かつての塾や資格スクールとは異なり、短期・実務直結型の学びが求められています。
●事例:40代向けのIT再教育スクール
東京・中野で始まった「リスキルラボ」は、40代、50代の未経験者を対象に、週1回・3ヶ月間でWeb制作や動画編集を学ぶ少人数制の教室です。講師は現役フリーランスで、実案件を題材にした授業が特徴です。転職希望者だけでなく、副業を目指す会社員も参加し、口コミで拡大中です。
中高年層の不安を解消し、「自分で稼ぐ力を身につけたい」というニーズに応える教育事業は今後も広がるでしょう。
時代の変化は、不安と同時に“ビジネスの種”をもたらします。高齢化、デジタル化、AI活用、学び直し、これらはすべて「社会課題」であり、だからこそ「強いニーズ」が生まれます。これから新規事業を立ち上げるなら、巨大市場や一過性のブームよりも、“小さな困りごと”に焦点を当てたサービスが、持続的な成長の鍵を握ります。自分自身の経験や地域資源と結びつけながら、社会の隙間を埋める事業をぜひ検討してください。
田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)