vol.688【経営コラム】経営者の成長は「時間の使い方」で決まる

…戦略を変える前に、まずは自分の時間を再配分せよ
(毎週月曜日配信)経営編
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
前回号の続きです。
経営を変えたい、会社を成長させたい、多くの経営者がそう願います。しかし、そのためにまず取り組むべきは「戦略の見直し」でも「人材の刷新」でもありません。最も効果的で、すぐに始められる変革の第一歩、それは「時間配分の見直し」です。
経済評論家・大前研一氏は次のように語っています。
「人間が変わる方法は3つしかない。ひとつ目は時間配分を変えること。ふたつ目は住む場所を変えること。3つ目は付き合う人を変えること。」
ここでは「時間配分を変えること」について言及します。
この言葉は、経営者の自己革新において極めて本質的です。なぜなら、時間は唯一、誰にとっても平等に与えられた資源であり、その使い方次第で成果が大きく変わるからです。
【1】今の「時間の使い方」は、未来の成果を決定している
経営者の1日は忙しく、会議、現場対応、経理、営業、トラブル処理と、やることは山積みです。しかし、その多くは「緊急だが重要ではない」仕事に追われていることが少なくありません。未来を変える仕事、戦略立案、人材育成、新規事業の構想、資金調達の検討、こうした「重要だが緊急ではない」仕事に、どれだけ時間を使えているかが経営者の成長を左右します。
【2】時間配分の見直しがもたらす変化
経営者が1日のうちたった1時間でも、「考える時間」「学ぶ時間」「戦略を練る時間」にあてれば、半年後、1年後の企業の方向性は大きく変わります。
- 毎朝30分、思考を整理するノートを書く
- 週に1時間、専門書を読む
- 月に1日、オフィスを離れて未来を考える時間を確保する
こうした小さな時間の投資が、長期的なリターンを生むのです。
【3】「経営者でなければできない仕事」に集中せよ
時間を再配分する際、まず見直すべきは「自分でやらなくてもいい仕事」にどれだけ時間を使っているかです。
- 経理処理を細かくチェックしていないか
- 現場の細部に口を出しすぎていないか
- 社員ができる仕事を、自分が抱え込んでいないか
こうした業務を手放し、「経営者にしかできない仕事」未来を描き、方向を決め、資源を配分する仕事に時間を集中すべきです。
【4】時間の再配分は「行動の習慣化」から始まる
人は、自分が習慣化していないことには時間を割きません。だからこそ、まずは「変えたい時間の使い方」を習慣に落とし込む工夫が必要です。
- 朝イチに「今日の重要タスク」を決める
- 毎週○曜日は「学びの時間に充てる」と決めておく
- 月初の1日は「戦略レビューの日」とスケジューリングする
このように、あらかじめ時間をブロックし、“意図的に確保する”ことで、時間の質が変わり、経営者自身の視座も高まっていきます。
【5】「忙しい=成果が出ている」と錯覚しない
多くの経営者が「忙しさ」に充実感を見出してしまいます。しかし、忙しさは「思考停止」の温床にもなります。忙しい状態こそ、時間配分を根本的に見直すサインだと捉えるべきです。
- 自分がいなくても回る業務は手放す
- 判断が遅れる業務は、最初から人に任せる
- アポイントは「緊急性」ではなく「戦略性」で優先順位をつける
こうした意識改革により、本当に集中すべき仕事に時間が戻ってくるのです。
【結言】時間配分を変えることが、経営の未来を変える
中小企業の経営環境は、日に日に複雑さを増しています。判断の質、スピード、視野の広さ、これらすべては、経営者自身の「時間の使い方」の中から生まれます。
会社を変えたければ、まずは自分を変える。自分を変えるには、何よりも先に「時間の再設計」を行うべきです。その第一歩は、カレンダーの見直しからでも構いません。あなたの時間の流れを変えることが、社員の時間の流れを変え、最終的には会社全体の成長サイクルを変えていくのです。
田中英司 (GPC-Tax本部会長・ 銀行融資プランナー協会代表理事)